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現役質屋が質屋アプリCash(キャッシュ)を語る
質屋アプリCash(キャッシュ)の登場
2017年6月28日に手元の品物を瞬時にお金に換えるサービスとして、バンクによるCash(キャッシュ)はスタートしました。Cash(キャッシュ)は、利用者が手持ちの品物をスマートフォンで撮影して送信すると査定価格が表示され、金額に了解すればその査定価格を手に入れることが出来るというサービスです。
手持ちの品物を即現金化できるので、Cash(キャッシュ)は質屋アプリなどと呼ばれました。そして、お金を手にしてから2ヶ月以内に、「お金を返すか」「撮影した商品を手放すか」を選択することが出来ます。お金を返す方法を選んだ場合は、手数料として手に入れたお金の15%をプラスして支払い、商品を手放す方法を選んだ場合は、撮影した商品を郵送で送ることになります。
取引金額の上限は20,000円ですが、質入れや買取のサービスと違って、すぐに現金を手に入れることが出来るという点で、日本ではいまだかつてない画期的なサービスであると賞賛されてきました。
質入れは、質屋の店舗に品物を持って行かなければ取引をすることが出来ませんし、買取は宅配買取や訪問買取といって店舗に行かなくても取引できる方法は有りますが、商品を送ったり査定員に来てもらうまでに時間がかかるので、即時にお金を手にできるCash(キャッシュ)は、このサイトの運営会社 須賀質店が考えても興味深い画期的なサービスだと思います。
質屋アプリCash(キャッシュ)の現金化のスピード、様々なリスクオフの手法は評価できる
品物をお金に換える手法としては、それまでにもヤフーオークションやメルカリが有りましたが、バンクによるCash(キャッシュ)は、利用者が現金を手にするまでの時間がとても短いことが注目するところです。
また品物を送ってこない、画像と品物が異なるなどの不正利用が懸念されていましたが、利用者の評価を発表する、携帯電話番号を管理し利用制限をかけるなどして、規約違反を繰り返す利用者には利用停止のような措置を講ずることで、大きな混乱はなかったようです。
Cash(キャッシュ)が大きな話題になったためか、メルカリも同様のサービスを考えて、即時買取アプリ「メルカリNOW」を発表しました。
質屋アプリCash(キャッシュ)は即日サービス停止に。。。。
このCash(キャッシュ)は、サービス開始当日から運営会社であるバンクの予想をはるかに超えた反響があったために、開始から16時間後にはサービス停止という事態に陥りました。
その詳細は以下のとおりです。
査定機能の一時停止までの時間:16時間34分
想定ダウンロード数:29,241DL
アイテムがキャッシュ化された回数:72,796回
アイテムがキャッシュ化された総額:3億6,629万3,200円
1アイテムあたりの平均キャッシュ:5,031円
「キャッシュを返さない」と選択されたアイテム数(集荷依頼されたアイテム数):7,512個
ランディングページのトラフィック:22万9,650PV
出典 https://www.fashionsnap.com/news/2017-06-28/cash-bank/
事前に準備することなく現金で1日に3億6000万円の出金に対応するということは、バックに資金繰りを支える大企業が控えているとか社長がよほどの資産家でない限りは対応が難しいでしょうし、その後に配達された7,500個以上の商品の取り扱いは、小さなベンチャー企業ではこなしきれないことが想像されます。
ただ、20,000円以下という少額のお金の需要の多さについて、実務で質屋を運営している弊社も驚きをもって注目しています。質屋の場合、借入れ金額が少なくなると、負担する金利が高くなる段階金利を採用している店舗が多いので、Cash(キャッシュ)が掘り起こした手軽にお金を借りたい需要はビジネスチャンスとして質屋も注目しなければならないでしょう。
初日の多数の利用者の中には、ヤフーオークションやメルカリで購入した品物をCash(キャッシュ)で換金しようとした利用者もいたと思われます。興味本位でちょっとした小遣い稼ぎ的に利用したとしても、1アイテムごとの平均キャッシュが約5000円なので、大きな利益は出せなかったと思われます。
Cash(キャッシュ)のビジネスモデルを現役質屋が考えると
1日で大量の反響を呼んだCash(キャッシュ)のサービスは、その対応量に追われて一時サービスを中断していましたが現在ではサービス内容を変更して復活しています。ただ、当初の質屋アプリとしてのサービスではなく、即時買取のサービスに変わってしまったようです。
また、買取上限金額が定められて、1日1000万円まで、月額3億円が買取上限設定されていて、利用者も上限金額にあとどのくらいで達するかの目安を確認することが出来るようになっています。
須賀質店ではCash(キャッシュ)が2か月以内に入手したお金を返すか、商品を送るか選択できるサービスである点 質屋と似たようなビジネスモデルであるが、借り手が返済するに違いないという性善説に基づいている点などに注目していたので、即時買取サービスに変わってしまったCash(キャッシュ)は、ちょっと残念でなりません。
この理由は、返金を希望したユーザーが全体の2%しかいなかったからだと代表の光本勇介氏が語っていましたが、ほとんどのユーザーが買取のサービスとしてCash(キャッシュ)を利用していたということになりそうです。返金の場合は、入手した金額の15%を手数料として支払わなければならないので、この金額的な負担もユーザーには受け入れられなかった点なのかもしれません。2か月間の借入れで借りた金額の15%、年利に直すと90%なので感覚的には割安感はありません。
①スマホで撮影して、すぐ現金を入手できる点は見習いたい
Cash(キャッシュ)の優れたところは、品物をスマホで撮影して送信するだけで査定額を知らされて、了解すれば即現金を入手できる手軽さにあったのではないでしょうか。質屋で現金を入手しようと思えば、まず店舗を探してその店頭に品物を持って行かなければなりません。
すでに利用している質屋があっても往復にかかる時間、取引にかかる時間を考えれば1時間程度はかかるでしょう。取引時は査定員と面前で取引することになるので、気の小さい人のなかには「このお客さん、また来たよー」なんて思われてないかな、等と余計な心配をする方もいるかもしれません。(←こんなことは考えてないので、ご安心ください!)
銀行のカードローンや消費者金融で借入れを申し込む場合、店舗に行って申込用紙に記載し、身分証明書や収入証明など必要書類をそろえて提出するのが普通でしたが、最近はスマートフォンから申し込みが可能の様です。以前は即日の借入れが可能でしたが現在では審査には数日の時間がかかり、新規の申し込みの場合は2週間程度かかることも珍しくはなくなりました。
質屋で物を預けてお金を借りるという「質取引」をおこなう場合、質屋営業法という法律の定めがあって、取引をする場合はその取引の都度ごとに対面での取引が定められているのです。そのために、質取引をおこなう場合は質屋の店頭取引をしなければならず、郵送の質入れや訪問の質入れは営業法違反になってしまいます。質取引はCash(キャッシュ)のような手続きのシンプルさ、手軽さがないのですが、既存の質屋も何か別の手法を考える必要はありそうです。
Cash(キャッシュ)やメルカリに共通していることは、既存の買取のサービスやお金を借りるサービスに付き物の面倒や煩わしさを出来る限り簡素化して、ユーザーにとってわかりやすくしていることが、これほどまでに大きく普及した理由と思われます。既存の買取やお金を貸す事業に従事している者は、事業を進めるにあたってのリスクや影響を深く考えすぎてしまうので、新しいユーザーに響くサービスを生み出せないのかもしれません。
②2か月後に、お金が回収できるかどうかは不透明
Cash(キャッシュ)のサービスを知った時に、スマホで撮影した画像だけで査定が出来るのだろうか、という点と、2か月後に品物を送ることも返金することもしないユーザーいるのではないか、という心配がありました。
現在はAIの技術が進歩して、ブランド品の査定の現場にも「査定アプリ」なるものが登場するようになりました。品物の真贋を見極めて、質屋の査定員が行うような査定のレベルに達するにはまだ達してはいない様ですが、すこしづつそのレベルは上がっている様で、いずれ人間の査定レベルにまで精度が高まるでしょう。
返金を選んだユーザーが2%程度だったようですから、この中には査定ミスによって貸したお金を回収できない事例もあったかもしれません。ただCash(キャッシュ)の上限が20,000円であったことや、件数の少なさから大きな問題にはならなかったようですが、お金を貸すのが仕事である質屋の場合で考えると貸したお金が回収できないというのは事業の継続に問題が出てきます。
質屋が語る「お金の回収の難しさ」
皆さんはお金を貸して、なかなか返してもらえずに困った経験はありますか。お金の貸し借りのトラブルは、人間関係も破綻させてしまうほどのネガティブなパワーがあります。友人関係であっても恋人同士であっても、結婚して夫婦であったとしても、お金のトラブルは友好な人間関係を破綻させるエネルギーがあります。
お金を返してもらえない場合、お金の貸し手と借り手はどんな行動にとると思いますか。そして、その結果はどうなるのでしょう。簡単に考えてみましょう。
①「お金を返して」頻繁に催促する
貸したお金をなかなか返してもらえない場合、貸し手は借り手に会うたびに「お願いだから返してくれないか」と催促するようになります。会えない場合は電話やメール、SNSなどで「返して、返して」と繰り返し呼びかけることになります。
②直接会って、返済を強く迫る
繰り返しの催促に応じてもらえなくなると、貸し手もストレスがたまってきます。この頃になると、有効な人間関係も崩れてきて、実力行使に移ることになります。少額のお金の貸し借りであれば「仕方がないか」とあきらめる人も出てくると思いますが、数万円~百万円くらいのレベルのお金の貸し借りでは、諦めることはまずないでしょう。
借り手の中には、会いたがらず逃げ回る者もいるかもしれません。こうなると、直接会って話合うことが出来ないので、貸し手の中には強引とも思える行動に出る者も出てきます。例えば、早朝や深夜に住まいに直接出向いたり、仕事場にアポイントなしで押しかけて騒いだりするとどうなるでしょうね。
深夜や早朝に住まいに押しかけるのは住居侵入罪、仕事場に何度も押しかけるのは業務妨害罪、帰ってくださいと言われるのに居座るのは不退去罪、いずれも犯罪に相当する行為で警察を呼ばれる可能性が有ります。その原因は借り手が貸したお金を返さないにも関わらず、強く返済を迫ると警察沙汰になるなんておかしな話ですね。
でも、日本は法治国家でありコンプライアンスが強く求められる現在は、貸したお金の催促が「脅迫まがいの取り立て」になると、犯罪になってしまうんです。お金の貸し借りって、こじれると本当に解決が難しいと思いませんか。
③法律家に相談して貸したお金を回収してもらう
貸したお金を自分で回収することが難しくなってくると、弁護士などの法律家に相談して裁判をおこす方法があります。貸したお金を返してもらえないような事例であれば、貸し手は間違いなく債権が存在する確定判決をもらえるでしょう。でも、裁判に勝っても借り手はお金を返すでしょうか?
このレベルのトラブルになると、借り手は「返したいけれども返せない事情」が有る場合が普通です。他にも借金があったり、失業してお金を稼げなくなったり、病気で治療費がかさんでいたりなど理由はさまざまですが、お手上げの状態である事がほとんどです
また、弁護士にお願いするには着手金が必要で、裁判をおこすにも費用がかかります。お金がかかるだけでなく、数か月から数年の時間もかかります。貸したお金の額にもよりますが、弁護士にたのんで裁判をおこす費用が貸したお金を上回っていれば、裁判をおこしてまでお金を回収する意味がありません。
先にもご案内しましたが、ここまでの状態になっている借り手は返したくても返せない状態になっている場合が多いので、仮に裁判で勝ったとしてもお金の回収は難しい場合が多いのです。それでも貸したお金の回収を考えるのであれば、借り手のわずかに残った財産を差し押さえることになりますが、この裁判もお金と時間がかかるので、ここまで争うのかという問題も残りますね。
④踏み倒すのに慣れている借り手も存在する
実は数十万円レベルの借金であれば、借り手が逃げ回って返済をしなければ回収することは難しいのが現実です。銀行や消費者金融、クレジット会社などでお金を借りて、返済を放棄すれば、強制的なお金の回収は難しいですが、返済が焦げ付いた履歴は信用情報に残り、数年間は金融機関からの借入れは出来なくなるでしょう。
新規のお金の借入れが出来なくなるのは困るので、多くの方は約束通りに返済して自分の信用を守るわけです。質屋からお金を借りた場合は、返済をしなければ預けた品物が質流れになって取り戻せなくなるので、利息を払い続けながら借りたお金を返すわけです。
お金の貸し借りでは、借り手が返済しなかった場合、何らかのペナルティ的なものがないと返済が続かず完済にまでたどり着かないと考えていました。しかしCash(キャッシュ)の場合、当初は画像を送るだけでお金が振り込まれて、返済するか品物を送るかは後日に決められるという仕組みは、従来までのお金の貸し借りと大きく異なる革新的なことだと思います。
実際にはお金を振り込まれた後に、返済もしない、品物も送らないユーザーが有る程度いたのではないかと想像できます。Cash(キャッシュ)では規約に違反したユーザーに対しては利用制限をし、法的措置を取るようですが、違反したユーザーを完全に締め出すことができたかどうかはわかりません。
その後のCash(キャッシュ)はどうなったか?
リユース業界で注目されたCash(キャッシュ)ですが、その後はDMM.comが70億円という巨額のお金を投資して、その傘下入りすることを発表しています。DMM.comはネット事業を幅広く展開している企業で、各種の動画配信サービス、ゲーム配信サービス、金融サービスなどを展開している会社です。
Cash(キャッシュ)を運営しているバンクに将来的な成長を期待して、お金を投資したようですが、その後この両社の関係はうまくいかなかったようで、バンクの代表 光本勇介社長はDMM.comから会社を5億円で買い戻しているようです。
現役質屋が質屋アプリCash(キャッシュ)を語る、まとめ
質屋アプリCash(キャッシュ)の登場は、実務で質屋を経営している須賀質店でも大いに話題になり、注目していました。登場して1日でサービスを停止してしまったことについて、予想していたことでもあり、残念でもあり、複雑な思いでその後を注目していました。
質屋は質入れを通じて仕事としてお金を貸す側ですから、貸したお金が約束通りに返済されるかどうかというのが大きな関心ごとです。約束通りにお金が戻ってくるかどうかを担保するために、お客様から品物をお預かりし、査定額に見合うお金をお貸ししています。
品物を担保として預かるということは、考え方を変えれば「貸したお金は返済されないかもしれない」という考え方に基づくもので、消費者金融やクレジット会社からのお金の借入れも、その手法は違っても考え方は同じものです。消費者金融やクレジット会社は、貸したお金は返済されない場合もあるから、借り手の信用力や過去の利用履歴を厳格に判断して審査をしています。
Cash(キャッシュ)の場合は、借りたお金は返済されるに違いない、品物の査定で偽物や情報を偽ることはない、といった性善説的な考えに基づいて考えられたサービスの様におもわれ、須賀質店では少なくとも思いつかなかったようなビジネスモデルです。
現在のCash(キャッシュ)はお金を貸すというサービスを止めているので、登場当初のCash(キャッシュ)が長く事業を継続できるビジネスモデルかどうかはわかりませんが、少額のお金を簡単に借りれるサービスを考えて実現させ、1日で3億6000万円の貸し出しが出来た点は注目にすべきと思います。
さらに、10,000円前後という少額のお金に対する需要の多さにも注目したいと思っています。質屋は貴金属やブランドバッグ、高級腕時計の様に高額品の取り扱いが中心になっているだけに、Cash(キャッシュ)が集めた需要やアイテム、顧客層は驚くべき数量といえます。Cash(キャッシュ)に注目し利用されたお客様に、どのように質屋の存在を認めていただくかは、今後の質屋の課題ともいえます。
須賀質店ではCash(キャッシュ)の手法、代表の光本氏の意見や考え方を学び研究することで、既存の質屋のビジネスモデルを少しでも現代のユーザーに受け入れられるように改善することを目指してゆきたいと思っています。